第37章 完璧な殺人と殺人者
「自首しよう」
江戸川乱歩の推理によって、或る殺人事件は無事に終焉を迎えた。
解決により獲られるものは同僚、国木田独歩の勾留解除ーーー。
此の事件の犯人であった小栗虫太郎を乗せたパトカーを見送って、数刻後のことであった。
『乱歩君聞け!もうじき探偵社に大きな仕事が来るが絶対に受けるな!』
事件現場に来ていた別のパトカーの無線から、今別れたばかりの小栗の声が鳴り響いた。
慌ててパトカーに駆け寄る乱歩。
『受ければ探偵社は滅ぶ!いいか 絶対ーーー』
ドン!
声ではない。
大きな音が無線から聴こえてくる。
ドン ドン ドン ドン!
ザー………ザー………
続けて数回の破壊音。
そして無線は、電波不良時の砂嵐みたいな音のみを発するようになった。
パトカーの前で動かない乱歩。
傍に居たエドガー・アラン・ポーはオロオロとして乱歩の背中を眺めていた。
「!」
その時だった。
ポーの横を通り、誰かが乱歩に歩み寄っていった。
「乱歩さん。迎えに来ましたよ」
「………紬か」
ゆっくりと振り向いて、声を掛けてきた人物を見る乱歩。
そして、2人はその場から去っていった。
探偵社に向かう道中。
此処まで保っていた静寂を先に破ったのは乱歩だった。
「………お前は、何処まで判っていた?」
「私は此の件に関して云えば何も」
「それなのにあのタイミングでの迎え?信じるわけ無いでしょ」
「ふふっ、手厳しい」
苦笑してから、ふぅ、と一息を着くと紬は険しい顔をした。
「嘘は云ってませんよ。しかし、何かが起こることは予測はしていました」
「……。」
今度は乱歩の表情が険しくなる。
「乱歩さんと私『達』の違いは、残虐と殺戮に特化してるか否かですよ」
「判ってる」
「そして、『今の』治と、私『達』の違いはーーー手段を選ばないこと」
「……!」
乱歩がハッとした顔で紬を見る。
「…………紬……真逆、………」
乱歩の脳裏に百凡推測が飛び交う。
紬は乱歩と目が合った瞬間にコクッと頷いた。
「此処からはーーーー『僕』も手段を選ばない」
紬の光を失った瞳を見て、自分の推理が正解だと云うことを乱歩は悟ったのだった。