第14章 誘拐
ウィスタリアに、いよいよ冬が訪れた。
朝夕の空気は
一層冷たく冴え渡り
星は一段と輝いていた。
イリアの星詠みは
更に様々な場面で役に立ち始めた。
まだ「星詠み師」としての立場は内密なため
実質は「ジルの発言」として
会議などで提案していく形ではあったが
ウィスタリアの経済、産業…
決断の局面で星詠みが徐々に活かされ
短期間で国は
自然と発展の一途を辿っていた。
そんな中
いよいよプリンセスが
ハワード卿を正式に「次期国王」に指名し
「宣言式」が行われることになった。
そのため
ハワード卿の治める領地を
どのように扱うかの協議のため
ジルとイリアは、ハワード卿の領地を訪れることが多くなっていた。
そんなある日。
……その日は一段と冷え込みが厳しく
空はどんよりとした雲に覆われていた。
「すみませんイリア、今回は公務がかなり溜まっているので…貴女には王宮に残ってこちらを進めていただけませんか?」
ジルは机の上に山積みになっている書類を
申し訳なさそうにイリアに依頼した。
ハワード卿の領地の件で動いている分
通常の公務が徐々に溜まってしまっていたのだ。
「もちろんです。ジルが帰るまでに、この机の上には何もない状態にします!」
イリアが笑顔でそう返すと
「無理はなさらないで下さいね。もし…不測の事態がおきたらすぐアラン殿を呼んでください…」
すると、
ジルは少し不安げに瞳を揺らし
イリアの髪をすっと撫でた。
「本当は…貴女をそばに置いておきたいのですが」
「ジ…ジル…?」
一房すくった髪に口付ける。
「…致し方ありません。明日か明後日には戻りますので。あ…それと」
ジルは、少し間を空けて
まっすぐイリアの方を向いた。
「プリンセスの宣言式が終わったら、正式に貴女を『星詠み師』として公認してもらえるよう話を進めます」
「えっ?!」
意外すぎる内容に、榛色の瞳は丸く見開かれた。
「公認が取れたら陛下にも、貴女が……私にとってどういう存在なのかをきちんとお伝えします」