第10章 浄夜【R-18】
Sid side----
心地よい秋の穏やかな風のせいか
その日、馴染みの酒場はいつもよりも賑わっていた。
その喧騒を尻目に
シドは一人、カウンターでグラスを傾けていた。
手元には
渡せなかったジルへの書類の束が無造作に置かれている。
(…しばらく会わねえ間に……変わりやがって)
昼間のイリアを思い出す。
シドの腕の中で青ざめていたイリアは
それでも瞳の奥に強い意志をたたえながら
答えていた。
(何が、あいつをあんな目つきにさせやがる)
気に入らない。
何がどう気に入らないのか、自分でも分からないほど
苛立つ。
「珍しいな、シドがこの酒飲むなんて」
馴染みのバーテンは、いつもより度数の高い酒を出しながら言った。
「ああ……今日見たこと全部忘れてえ」
「へえ、シドにもそんなことあるんだな」
注がれる2杯目を見つめるシドに、バーテンは告げる。
「じゃあ、これは俺からの驕りにしよう…あまり無理はするなよ?」
いつも余裕を含んだシドの笑みだが
今日はどことなく自嘲を含んでいた。