第8章 休暇
「ジル様、どうぞ!」
きょとんとするジルの前で、イリアはその飲み物を一気に飲み干した。
ジルも恐る恐る、その飲み物を口にする。
「……ん、これは」
「うめぇだろ、今年のオレンジで作った酒だ」
さっぱりとした酸味の中にまろやかな甘みが混ざり
アルコールを飲みやすくしてくれているようっだった。
店主と別れるとジルはイリアに聞いた。
「イリア、あの店の常連だったようですね?」
「はい、よく買いにいっていました」
「あの裏メニューも初めてではなさそうでしたね」
ジルが少し意地悪な瞳を見せた。
「あ、えーっと……」
イリアは無言で笑みを浮かべてごまかす。
ジルはそんなイリアの頬を優しく撫でた。
「…もし貴女をプリンセスに選んでいたら、厳しい教育が必要でしたね」
「えっ……」
「でも、そんな自由奔放な貴女は、とても魅力的です」
ジルの瞳がつやっぽく光った。
イリアは、みるみる顔が紅潮していくのが
白昼の酒のせいか、ジルの瞳のせいか
分からなくなってしまった。
その後、お気に入りの書店を覗いたり
ジルの好きな焼き菓子を買ったり
それを教会前の広場で食べたり
傍から見れば、恋人のように
イリアはジルと共に過ごした。