第6章 王宮へ【R-18】
ジルとの再会から1週間が経った。
「別件」とやらで姿を消したシドとも
あの夜以降会っていない。
ジルに王宮へ仕える誘いを受けたものの
考えているだけで時は過ぎ
また、王宮側からも何のアクションもなかった為か
あの夜の誘いは
酔ったジルの冗談だったのでは?とさえ
思えてしまっていた。
珍しく仕事もなく、空も雲が広がり
何もすることがない夜だった。
確実に夏が訪れ始め
遅い時間まで城下が賑わうようになってきた。
メインの通りから少し外れたアパートの4階に住むイリアは薄手のマキシワンピース一枚で、
外を行き交う人々を眺めていた。
少し風が吹き、無造作にまとめ上げたブルネットの髪の後れ毛だけがなびく。
(あ……)
すると、下の通りを少し派手な身なりの女性と歩く男がいた。
(……シド)
女性はシドの腕に自分の腕を絡ませ、シドを見上げて楽しそうに何か話してる。
(……取引先、鞍替えされたかなぁ)
先週、あれだけジルに胸がときめいていたのに
シドのそんな姿を見るとお腹の底が冷たくなるような、全身が冷え切る感覚に襲われる。
それでも、目で追うことをやめられないでいると
(バカだなぁ、私)
ぞくりと鳥肌のようなものが立つほど、体の奥が冷たい。
やがて二人が遠くの人混みの中に消えるのを確認すると、イリアは部屋の中へ入り、ベッドに横たわった。
(もういっか……)
シドと会うことももうなくなるかもしれない。
…それはそれでいいのかもしれない。
王宮に仕えるからといって
幸せを約束されるわけでも
ジル様と幸せになれるわけでもないのは分かってる
でも………
(このままここにいても、シドと幸せになることは……あり得ない、よね)
シドは私のことを
取引相手としてしか見てない…
考えているうちに
イリアの意識は闇の中へ沈んでいった。