第5章 再会
明るい大通りから掛けられた声。
……聞き慣れた、低い声は
少し苛立ちを含んでいるようにも聞こえる。
逆光のせいかはっきりと表情は見えないが
誰なのかはすぐ分かる。
「……今、ちょうどシドの話をしてたとこだよ」
「あ?」
レオは余裕のある笑みを浮かべながら
イリアから少し離れた。
壁につかれた手と、顎に添えられた指はそのままだ。
「…シドの彼女なのか確認してたとこ」
「へぇ、そうか…」
シドはゆっくりと歩み寄り、路地裏に入ってきた。
徐々にシドの顔が見えてくる。
………いつも通りの、余裕のある笑みだ。
「で、教えてもらえたか?」
「うん……違うって」
シドの表情は変わらない。
イリアの胸が僅かに痛む。
「だから…いいよね?俺がこのままデートしても?」
「…あいにくだが俺との約束が先だ。この女に用があんなら出直せ」
レオは沈黙し、二人は見つめ合っていた。
レオがどんな目をシドに向けているのかは
イリアからは見えなかった。
「……そ、残念」
レオはイリアに視線を戻した。
その目は先ほどとは違い、優しさと妖艶さの混ざったような色を湛えていた。
「またね、イリアちゃん」
レオは離れると、シドの方へと歩き出した。
すれ違う瞬間、シドが呼び止める。
「レオ」
「…何?」
「……お前にしちゃあ随分口説き方が下手だったな」
レオは鼻で笑うと、僅かに振り返り
「そうだね……本気になりそうで焦ったのかも」
そう言い残して去っていった。
イリアが呆然としていると
「おい」
シドの少し荒っぽい呼びかけに、はっとなった。
「あ、ごめん…えっと…」
「……今日の夜空けとけ。この店に来い」
シドはそう告げて、小さなメモ紙を渡してきた。
そこに書かれた店は
城下の中でもトップクラスのレストランだ。
以前、お忍びで鑑定を依頼された伯爵夫人と訪れたことがあったが
貴族や官僚、身分の高い人間しかいなかったように思う。
「え、ここ?なんで?」
理由を聞こうと顔を上げた瞬間
シドは先程のレオと同じように壁に手をつきイリアに迫った。
「…っ!」