第17章 エピローグ
「おい、うるせえお前の母ちゃんには黙っとけよ」
シドは少し手前の店で買ったクッキーを
肩車していた『連れ』に渡した。
「クッキ」
頭上でぽりぽり、と音が響いたかと思うと
ぱらぱらっと屑が落ちてくる。
「わっ…んだよ…こぼすんじゃねえ」
「シーロ、あーがと」
「………」
シドは黙って頭に降りかかったクッキーの屑を払った。
やがて王宮の正門が見えてくると
そこに立っていた人物を見つけるや否や
頭上の『連れ』はまた暴れだす。
「おいやめろって!」
「アラン!アラン!」
ばしばし叩かれたシドの髪は乱れていく。
名前を呼ばれた当のアランは
「ん、おかえり」
と、優しく笑って答える。
シドは暴れる『連れ』を下ろした。
「おい、アラン…子守り交替しろ」
「…俺、見張り中なんだけど」
「あ?いいだろ…護衛もお前の仕事だろうが」
「頼まれたのはアンタだろ」
『連れ』はアランのマントを引っ張る。
「アーラン!」
シドはにやりと笑った。
「ほらよ…ご指名だろうが」
アランはシドを軽く睨むと、『連れ』をそっと抱きかかえた。
「……城の入口までだぞ、セーラ」
「アラン!アランすき!」
アランの横顔をぺちぺち叩きながら
セーラと呼ばれる女の子は抱きかかえられていた。
その後ろをシドがゆっくり追いかけるように歩く。
「あれ?え、アラン?!」
そんな二人の姿を見つけ
掛けてくる人影があった。
「……やだ、ごめんなさい!もう…セーラ、だめだよ…アラン仕事中なのに」
榛色の瞳を揺らしながらアランのもとにやってくる。
「かーしゃま、たらいま」
セーラはアランから下ろされると
イリアのスカートの裾にしがみついた。
「ん、じゃ俺は戻るから」
礼を告げるイリアに、アランは背を向けて手をひらひらさせた。
「……シド、あなたに頼んだはずだけど」
「あ?ちゃんと正門まで連れてきて面倒見たろうが」
イリアはセーラを抱きかかえシドを見上げると
しばし沈黙の後
「……報酬、3割カット」
「あ?!なんでだよ!」
「シーロ、カットー」
シドは納得行かない様子で
母娘の隣を歩いた。