第17章 エピローグ
Epilogue----
ウィスタリア城下。
新国王になってから3年。
国はますます豊かになり
それは辺境の地へも徐々に波及し
国全体が
安定し、活気あふれるようになってきている。
今年も
ネープルズからのみずみずしい果物が市場に並び
ウィスタリアで獲れた野菜も
負けず劣らず並んでいる。
他にも
少しずつではあるが
国交のなかった
シュタインからの工芸品なども輸入されるようになり
ルイ国王の施政は
国民を確実に幸せに導いていた。
そんな穏やかな昼下がりの市場通り。
「…あ、あとこっちの桃を二つと…」
果物店の前で
買い物をする背の高い男の姿がある。
「あとはパン屋か……って、あ」
深い藍色の髪を後ろで束ねたその男は
買った物が入った紙袋を受け取ると
足元にさっきまでいた『連れ』がいないことに気づく。
「……ちっ、どこいった」
頭をかきながら、男はあたりを見回す。
「おい!どこ行った!おい!!!」
すると少し離れた所から声がする。
「おいお兄さん、この子かい?」
探していた『連れ』は
数メートル離れたところにある焼き菓子屋の店主に捕まえられていた。
「ああ…わりいな」
店主はその『連れ』の頭をぽん、と撫でて言った。
「だめだよ、お父さんから離れちゃ」
「おい、誰が父親だ」
「え、違うのかい?」
「こんな躾のなってねーガキが俺の子なわけねえだろ」
背の高い男は
ミッドナイトブルーの瞳を店主に向け、せせら笑ってそう告げた。
「シーロ、シーロ」
『連れ』はにこにこ笑いながら
背の高い男を指さして言った。
「あ?ちゃんと呼べ。俺は『シド』だ」
「シーロ」
「ちゃんと呼ばねえと、おやつ食わせねえ」
「やーや」
小さな『連れ』はシドの服の裾を掴み
深紫の瞳で上目づかいに見上げた。
「シーロ、たかたかー」
「あ?んだよ……しゃあねえな」
シドはいったん買い物袋を地面に置くと
『連れ』を肩車して再び荷物を抱える。
「きゃー!シーロ!きゃっきゃ!」
「おい!暴れんなバカ!」
小さなおさげに結ばれたブルネットの髪が
シドの頭上でゆらゆら揺れていた。
「オラ、帰んぞ」
そしてゆっくりと
王宮に向かって歩き出した。