第16章 婚姻式
何が何だかわけがわからない、という表情のイリアに
ジルは優しく言った。
「順序が逆になってしまって申し訳ありませんでした。貴女を驚かせたくて……このようなことをしてしまいました」
「ジル…?」
「今日は『日が良い』と、貴女は言っていましたね?」
確かにそうだ。
婚姻や新たなスタートを切るには
1年の内で最も良いのが今日だ。そう星が教えてくれた。
ジルの問いにイリアは黙ってうなづく。
「…私たちも、あやかりたいと思いまして」
そう言うと
ジルはすっとイリアの手を取った。
「イリア……私と、結婚して下さいますか?」
ジルに握られたその手に
温かい雫がぽたぽたとこぼれ落ちた。
その雫はとめどなく溢れ
もう止めることができない。
声が…つまってしまって、うまく出せない。
ジルの顔を見上げると
優しく見守るような笑みが浮かべられていた。
(ジル……)
顔が涙でぐしゃぐしゃになる。
なんとかぎりぎり嗚咽はこらえている。
イリアはうつむき
絞り出すように答えた。
「……は、い………」
その言葉を聞き
ジルはそっとヴェールを持ちあげた。
そして
涙を指でぬぐうと
「一生かけて、貴女を守ります」
頬に手を添えて
優しいキスを落とした。
「………」
数は少なくても
一番温かい拍手が
庭に響いた。
「……いいえとは絶対言わせないプロポーズだったね」
ユーリがいたずらな笑みを浮かべて呟く。
「確かに…それも計算だったりしてね」
レオがそれに応える。
「おい…お前ら」
アランがそれをとがめる。
向かい側のプリンセスが
その様子を見て笑う。
「よかった…本当に」
プリンセスも、少しだけ目を潤ませている。
「そうだね」
ルイの優しそうな笑みがジルとイリアに向けられた。
大切な仲間たちに見守られながら
イリアはジルと晴れて結ばれた。
空には
沢山の星たちが
いつもと同じ輝きで
始まりの時を迎える二人を
そっと照らし続けていた。