第8章 我儘
ここまでするか?
するのだ。
功者は磯の財、牡蠣殻は波平の財、失う訳にはいかない。
「五代目。…綱手様。お願いがあります。随分と図々しいお願いになりますが、お聞き下さいますか」
話の前にまず呑めとナルトと伊草に冷めたお茶を押し付けていた綱手が、眉をひそめて振り向いた。
「何だ?」
これが最初で最後の我儘だから。叶おうが叶うまいが、一度でいい。好きにさせてくれ。
磯の里を思いながら波平はぐっと息を呑んで、吐いた。
「散開のときのように、磯を木の葉に置いては下さりませんか」
「…ほう?」
綱手の目が大きく開き、次いで眇められた。その傍らで自来也が瞬きしている。
波平は一歩下がって頭を下げた。
「あなたが思うより、牡蠣殻は磯に必要な人材なのです。手放してみるまで私自身ここまでとは思いませんでした。微力ながら、探索に磯を加えて頂きたいのです。磯人は決して無能ではない。一助になります。増して牡蠣殻は元々磯の者なのです。他里に任せて磯が手をこまねいている法はありますまい。どうか五代目、ご一考下さい」
下げた頭の先で、綱手と自来也が、ナルトとシカマルが、目を見交わす気配がした。伊草が凝視する視線が痛い。
波平は俯けた顔に笑みを浮かべた。
「…五代目。どうか」