第4章 未熟者
渋い顔の自来也と茫洋とした波平。
二人を前に綱手は何度目かの溜め息を吐いた。
「…牡蠣殻は生きていたんだな」
溜め息に纏わり付いた呟きに、波平は綱手を見たがその没表情の顔付きに変わりはない。
綱手はまた溜め息を吐いて自来也に顔を向けた。
「…自来也、歯の欠けた汐田がラーメンも食った事のないオカマの叔父を押し付けて消えたって、一体何の話だ?錯乱してるのか?」
「何でコイツがここにいる?」
自来也がむっつりと波平に顎をしゃくる。見返す波平は茫洋とするばかり。
「話があるからだ、お前と同じく。だから揉めるならひとりずつ聞くって言ってるだろう?待ってろ、お前は」
「何だってわしが後回し!?」
「阿呆!仮にも他里の長が来訪しているのに自里の爺を優先する馬鹿が何処に居る!トチ狂っとらんで黙らんか、馬鹿タレが!」
「わしが爺ならお前は婆じゃぜ?滅多な事を言うな、綱手。ブーメラン食らうぞ」
「喧しい。顔岩目掛けて吹っ飛ばすぞ?」
「わしと顔岩を粉々にする気か」
「知らん。お前が勝手に吹っ飛ばされて勝手に粉々にするんだ。私に関わりない。私はお前を吹っ飛ばすだけだからな。何処に飛んで行って何を粉砕するかはお前の勝手だ」
「狙いすまして吹っ飛ばす気でおるくせに、わしに丸投げか!つうかお前、顔岩に恨みでもあんのか、綱手!?」
「……恨みなどないが毎日見てると厭になって来る…。岩のくせにデカイ顔しおって、微妙に腹立たしい」
「…何かあったのか、やさぐれてからに」
「こんな仕事してりゃやさぐれもするわ」
「まさかに忘れちゃおらんだろうな?あそこにゃお前のデカイ顔も刻まれとるんじゃぜ?」
「だからますます苛立たしいんだ!」
「わしに怒るなよ。何だ一体…」
答えを求めて思わず波平を見た自来也は、無表情に綱手を見やる波平にイラッとした。
「おい、ナミヘイ」
「……」
波平の眉がピクリと動く。
その僅かな反応に気付いた自来也はしてやったりと言わんばかりの大変嬉しそうな顔をした。
「どうした、ナミヘイ、腹でも渋くなったかよ?」
「……」
波平は眼鏡をとり、眉間を揉んで息を吐いた。
「あなたがうちの先代を嫌っていたのは知っています。私は確かに彼の息子ですが、それはまた別の話としてお付き合い頂きたいものですね。私は破波じゃない。波平、ナミヒラです」