第3章 誘った理由
従業員専用の裏口から出ると、すぐそこに櫻井さんが立っていた。
「すみません!お待たせ、致しました…。」
「いや、全然です。」
櫻井さんを見上げると、また違和感。…なんで私は芸能人と普通に会話しているんだろう。凄いな。
「………、」
「え、なに、顔、なんかついてる?」
少し笑いが混じった同級生のような話し方。初めて会った人なのに、不意に出るこの距離のない口調も嫌に思わせない人。人との距離の取り方が上手な証拠だ。
「…あ、いや、…まだ信じられなくて…、ふふ。」
もはやこの状況が可笑しすぎて笑いが出た。
「え?なにがなにが。」
「櫻井さんとお話してることが、不思議すぎて。」
「んなことないよ、話したの初めてじゃないし。」
「お疲れ様の挨拶ぐらいじゃ会話に入りませんよ。」
「わかってますよ。」
櫻井さんの言葉の意味が理解できず、え?と聞き返した。
「もっと、前、」
櫻井さんが首を少し傾けて、私の顔を覗き込むように言葉を続ける。
「実は初めましてじゃないんです、僕たち。」