第2章 奇妙な出逢い
「以上で1840円で…、」
視線を合わせるように顔をあげると、いつもしているはずのマスクをしていない常連のお刺身さんに驚いた。
「お疲れ様です。」
といつもの笑顔をくれたのは、テレビの中で見る、嵐の櫻井翔さん。
「お、お刺身さん…じょ、冗談ですよね…」
初めてに近い会話。初対面の人を変なあだ名で呼んでしまった。
「え?お刺身さん?」と櫻井さんが笑う。
「あ、い、いや!…お仕事、お疲れ様です。」
「うん、さんの方こそ、お疲れ様です。」
「な、ぜ!な、名前を…」
櫻井さんの視線が私の左胸に向けられる。私もそれにつられると、しっかりフルネームが入った名札。
「、さん。」
まさか芸能人に、いや嵐の櫻井さんに名前を呼んでもらえるなんて。開いた口が塞がらない。田舎者丸出しの私に(東京生まれ東京育ちなのに。)テレビの中のその人は優しく笑う。
「気づかれてるかと、思ってました。」
「え!何を、ですか。」
「櫻井翔、だって。」
なぜそう思ったのでしょう。普通の会話ならそう返せるのに、動揺真最中の私は次の答えも用意出来ないくらいだった。そんな私に呆れたのか、眉を下げたように一息入れて、櫻井さんが口を開いた。
「ところでさん、」
とまた私をフルネームで呼ぶ。
私はまだ、この奇妙なシチュエーションに頭が全く追い付かなくて。
「は、はい。」
こんな必死な返事しかできないのに。
「お仕事は何時に終わりますか?」
櫻井さんはまた笑って、涼しげにそんなことを問う。
櫻井さんとの奇妙な出逢い。