第9章 カコ
特番の途中、トイレ休憩の際に1度スタジオを出る。マネージャーに駆け寄り携帯を受け取った。
腕につけた時計で時間を確認しながら、自動販売機のある休憩所まで行き、隠れるようにして電話をかける。
約束の時間はとうに過ぎている。只今の時刻、22時35分。彼女との約束は21時。
まただ。また、約束を破ってしまった。付き合って4年、ちゃんと約束を守ったことなんて、まだ1度もない。
トゥルルルル…と2コール目で彼女の声が聞こえた。
『翔くん?』
「、ほんとにごめん、」と携帯の口元を押さえながら小声で謝る。そのごめんの理由を言わずとも、はわかっているみたいだった。
『うん、わかった。』
いつもと変わらない声のトーン。その電話の向こう側からは、ザワザワと人の笑い声や話し声が聞こえる。
「今、どこ?」
『駅前のカフェだよ?』
ずっと連絡を待っていたを思うと、眉が歪む。はあ、と深いため息をついて頭をかいた。
「…ごめん、」
『うんん、大丈夫だから。ほら、行ってらっしゃい!』
嘘だ。
あの日、4年前に言った「一緒に居るときは寂しい思いをさせないから」なんて、大嘘だ。一緒にいる時間さえ作ってやれないのに。寂しい思いしか、させてないのに。我慢しか、させてないのに。
「帰りにまた、連絡するから。」
『うん、家で待ってる。』
「…じゃあ、そろそろ戻るね。」
『はい、頑張って。』
今日ぐらい、せめて今日だけは守りたかった。
今年も君に誕生日を独りで過ごさせるなんて。