第6章 映画館の衝動
二人しかいない映画館で真ん中の特等席。座ると必然的に繋いでいた手も離される。それを少し寂しく感じてしまった。
ダメだ、これじゃあ私ただの欲求不満じゃないか。
首をブンブンと横に振って辺りを見回した。
誰もいない、小さな映画館。レトロな雰囲気で、確かに年期は入っているかもしれないが、椅子や、壁や、ライトからも大切にされているんだな、と佐久間さんの愛が感じられる。
「…翔くん、わかる、まだ映画は始まってないけど、素敵な場所だね。」
「うん、そうなの。なかなかないよね、こんな贅沢な場所。」
今は大きくて、綺麗な場所、が一番で、こんなに雰囲気のある、ここで見たいと思わせてくれるそんな貴重な場所。知らなかった、こんな場所があるなんて。
「翔くん、」
「なに?」
「連れてきてくれて、ありがとう。」
右に座る翔くんを見ると、肘が当たるくらい近くにいて、少し同様した。今で翔くんとこの距離で見つめ合ったことなんてない。
「…ち、近いね、あはは。」
翔くんから視線を外して前を向くと、
「ちゃん、」
翔くんから呼ばれた。
「は、はい!」
脈拍数のリズムが上がって、つい声が裏返る。
「手、繋いでもいいですか。」
もう一度隣を見ると、さっきの私と同じ、真っ直ぐスクリーンを見る翔くん。私からは横顔が綺麗に見える。
「…さっきは許可、ありませんでしたけど…」
「う、るさい。」
と言った翔くんは照れたように、顔を背けた。
レトロな白黒洋画はキュンとするような恋愛もので、繋がれた翔くんの手は暖かくて、映画が良かったのか、隣に翔くんがいたから良かったのか、私の胸はもうなんとも言えない気持ちでいっぱいだ。