第6章 映画館の衝動
「ちゃん!」
櫻井さんとはよく会うようになった。もちろんお仕事が忙しい方なので、普通の友達のようにはいかないが、お休みが取れると一度は連絡してくれる。今ではお互いを抵抗なく下の名前で呼べる。(抵抗なく、なんて言ったけど、私はやっと最近慣れてきた)
「あ、翔くん、お疲れ様。」
仕事帰り連絡がきて、「夜の映画なんてどうですか?」と誘われた。そんな誘い方があるだろうか。翔くんは私の笑いのツボをいつも押してくる。
「早く、って今日OLさんっぽい。」
翔くんが爪先から頭の先へと、私に視線を流す。
「あはは、翔くん目線が嫌です。やらしいです。」
「ばか!違う!雰囲気違うから調子狂う。」
「ふふ、そうですか。」
「ほら、いくよ。」
翔くんが私の手を少し強引に引く。
大人になって、男性に手を引いてもらうのは久しぶりで。その感触はなんだかくすぐったくて。でも相手は翔くんで。頭の中に沢山のはてなが並らぶ。
あれ?私、この手が嬉しい。