どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第5章 素性
「お腹は膨れたし、シャワーも浴びたし、あとはハンター試験申し込みだけね」
サキはそう言うと、バスローブのままぐっと背伸びをした。
私は正直、まだこの部屋に慣れていない。
だって照明はシャンデリアだし、明らかに高そうな絨毯に、本革らしきソファー、やたら繊細な堀込がなされたテーブルに、なんて名前か分からないような観葉植物。
『……サキはココ、落ち着くんですか?』
『んー?まぁまぁ?でも、セキュリティはトップクラスよ?あっと、貴重品全部フロントに預けっぱだったわ』
言いながら、サキは部屋の片隅に積まれている数箱の段ボール箱へと近付く。
そう言えばサキは昨日、どうして何も持っていなかったんだろう。財布とか、携帯とか。
『まー、聞き込みって言うか?ちょっとした仕事よ、シゴト。身軽に行きたかったの』
そんなものなのだろうか?と、私が頭にクエスチョンマークを浮かべている間に、サキは段ボール箱の中から、あれでもない、これでもない、といくつもの服を出しては置き、出しては置きしていた。
そこにはさっきまで着ていたような普段着から、上等そうなスーツ、パーティーにでも行くようなワンピース、それにチャイナ服まであった。
いつ着るんだろうアレ……などと思っていると、着替え終えたらしい彼女が姿見で服装を確認しているところだった。
『ま、悪くないか』
鏡に映ったサキは、下は黒のスキニーに真っ赤なベルトを通し、上にはぴったりした黒いニットのハイネックにミリタリー系のアウターを羽織り、そのうえ髪を大雑把に束ねピアスまでしていたので、私は一瞬、これは誰だと思った。
『えー、変?』
『いや、変ではないです!けど、あまり私がしない服装だったので、その、違和感が強いというか……』
なんとも歯切れの悪い私に、サキは『まぁ、慣れよ、慣れ』なんて気楽に返す。そして唇に真っ赤な口紅を引き、小さめのリュックを片方の肩に引っ掛けると、ブーツを履いて部屋を後にした。
「待ちくたびれたよ」
「ゴメンゴメン」
貴重品を受け取ったサキは、ロビーで待つヒソカに悪びれず返す。
「にしても、随分と印象を変えたね。よく似合ってる」
「お世辞はいいから、早く行くわよ。アンタも申し込み、まだなんでしょ」