どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第9章 彼らの理由
「……なかなかボロクソに言われてたじゃない?」
立ち止まるサキが、緩く腕組みしたままニコルを見下ろし声掛ける。肩で息をしているニコルは、見開いている目を恐る恐るこちらの方に寄越したが、視線を合わすことなく顔を背けた。
自信家だった彼が、他人の些細な言葉に怯えているのを、肌身で感じる。
「まぁ、こんなとこでヘバッてんだもん、実力不足なのは明白よねー」
『サキっ!?』
そんなことを今の彼に言うのは酷だ、と、私は思わず彼女を制止する。けれどサキはそんな私を横目に見て、
『じゃ、なに?“初受験でここまでやるなんてすごいわよ”とでも言って走り去ればいいってワケ?』
と呆れたように言った。
私は、一度言葉を詰まらせ、“確かにそれは嫌みだ”と思う。と同時に“それでも言い方があるはず”とも感じたが、その頃にはサキはニコルに、次の言葉を投げ掛けていた。
「身にしみたでしょ、アンタの限界。現段階の、ね」
『……え?』
私は、思わぬサキの言葉に、目をしばたかせる。
一方で、大して表情の窺えぬニコルの眉が微かに動いたのを、サキの目が捉えた。
「限界を知って初めて、分かることも多いわ。……今思い知ったこと、生かすも殺すも、アンタ次第よ」
サキはそうとだけ言うと、ニコルに背を向け軽く走り始める。
……いたずらに煽ってたわけじゃ、なかったんだ。
私は足早に立ち去る彼女を見つめ、ホッとすると同時に込み上げる申し訳なさに、口を開きかける。
と、その時、ヒソカがこちらへと歩き始める気配がして、サキは僅かに振り返った。
ヒソカは顔を伏せるニコルに一度目をやり、興味無さげに逸らす。まるで道端に転がった空き缶が、偶然目に入った程度の反応。
そしてサキと視線が合うと、彼はニコリと微笑んだ。
彼の笑みは、変わらず妖しく綺麗だ。けれどそれ以上に、ニコルに向けた目の冷ややかさに、私は寒気を覚えた。
彼にとってどうでもいい、所謂“普通”の範囲の人間に対する彼の反応はコレなのだと、私は今更思い出したのだ。
そして、“こんな状況”──サキにうっかり取り憑いてしまうような──でなければ当然、私はニコル君側の……いや、もっとどうでもいい人間なのだろう、と、そう考えて何故か胸が傷んだ。