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どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】

第8章 君の理由


『気付いたときには、そいつらを殴り飛ばしてた。そのあと、首根っこ引っ掴んでそいつらの隠れ家に乗り込んでさ、ひと暴れもふた暴れもした。……念使いが居なかったのは、正直ラッキーだったと思うわ。あたしは、人やら書類やら弾痕やらでグシャグシャになった部屋の中で、はじめからこうしてれば良かったと思った。でもすぐに、それは無理だったと気付いたわ。おじさんは、戸籍の無いあたしにも真っ当に生きて欲しいんだと言っていたから』

おじさんが事務所のスタントマンらにサキを紹介しているのだろう、小さなサキの頭を撫でるおじさんがこちらに微笑みかける映像を、彼女は紙をぐしゃりと丸めて捨てるように消す。

『“何が真っ当にだふざけんな”って思ったらさ、今頃かって思うくらい唐突に涙が溢れてきたわ。……表の世界に憧れるあたしとは、その日を限りに決別した』

返り血に濡れるサキの姿が、高級そうな琥珀色の酒瓶に映り込んだ。眉根を寄せるサキの頬には、幾筋も涙が伝っている。
サキは倒れる男達から奪っていたのだろう拳銃を構え、その酒瓶を撃ち抜いた。

『……その後は、芋づる式に叩いていったわ。……“おじさん”のためなんかじゃない。それが、あたしのケジメだったから』

ほんの微かに、サキが嗤う。

『ま、当然、そんな行き当たりばったりみたいな手は上に近付くほど通用しなくなったわ。そうなってくると、あたしは自然と情報を買うようになったし、身の振り方を考えたり隠れ蓑を用意したりするようになった。その過程で念の存在を知って、念使いを雇うようにもなったわ。当時は、自分で一つの能力を得るために時間を割くより、既に能力を得ている人間を複数人雇った方がコストパフォーマンスが良いと思ったのよ。幸い、小さいけど組織をいくつか潰したお陰で、お金には困ってなかったから』

そう言って、サキは震える片手で髪を撫で下ろす。

『あたしは一般人として過ごすために、情報屋から戸籍も買った。選ぶ戸籍の中にたまたま春燕(チュンイェン)って名前があったから、さして迷わずその名にしたわ。そしてその名で呼ばれるときは、チュンイェンのように振る舞った。そうすると彼女が支えてくれている気がして、少し気が楽だったわ』
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