第1章 カラ松
ゆらり、ゆらり、
まどろむ空間の中で
『カラ松兄ちゃん。』
そう、兄の名を呼べば
『呼んだか?マイシスター?』
サングラスをずらして
キリリとした表情で振り向いた。
『どうした?何かあったのか?』
次の言葉が出てこない…
そんな私にカラ松兄ちゃんは
心配そうに近寄ってきてくれた。
『フッ…胸の内に秘めた
闇を今こそ解き放つべきだろう。』
無理強いをせず、あえて
その時だと諭してくれて
私の言葉を待ってくれる。
『………、へへ』
いつもこの遠回しな言い方と
わかりにくく複雑な言い方に
自然と笑みが零れた。
『なんだ、何を笑っている?
俺は何か面白いことを言ったのか?』
ほんとにわからないと言う様子で
ハテナマークを浮かべて
首を傾げて…傾げて、
さっぱりわからんみたいな
表情がおかしくてまた笑う。
『ふふ…っ。』
『もったいぶらずに教えてくれ
気になってしまうじゃないか…』
へにゃ、
男の人には似合わなそうな表現が
今の兄にはよく似合っている。
誤魔化す様に
『呼んでみたくなったの。』
って言い出せば、単純っ
本当に嬉しそうに笑ってくれた。
『そうか!!
妹さえ声に出したくなる甘美な響き
このカラ松nameに感謝しよう!』
クルクルと華麗なターン。
その様子を目の前で見つめ
笑顔のまま、一粒の涙が落ちた。
笑顔に流れるその涙は
まるで晴天に舞い散る雨粒のように
そんな私の様子に、
カラ松兄ちゃんは囁いた。
『大丈夫だぞ、莉瑠。』
胸をドンッと張って
『この俺がいる限り
心配することなんて無いんだぞ。
頼ってくれ、我が妹よ。』
弱い弱い私の心を引っくるめて
守ってくれる寛大な心が包み込む。
『ありがとう、カラ松兄ちゃん。』
不器用な笑顔を浮かべた私に
笑顔で語る。
『ノープロブレム、マイシスター。』
台無しのようにも聞こえて
でも何だか心地よく聞こえる聲。
もう一度、ありがとうと
【夢の中の】兄へと手を振って
【私のいる】世界へとかえる。
カラ松兄ちゃんはずっと
ずっと…手を振り続けてくれた。
"ごめん…ね、"
届かない懺悔の言葉と
優しい兄の記憶を夢の中に置き、
そっと、自分の心に蓋をした。
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