第1章 あの噂
「ビッチ、かぁ……」
俺以外誰もいないトイレで用を足しながら、一人呟く。
俺は、もてない。俺のクラスに、“女の子の憧れ☆学園アイドル王子様(はぁと)”がいるから……というだけじゃない。
どうしても、異性に対して悪ノリして……、好かれる前に、嫌われてしまう。
やっぱり、身体しか見ていないせいだろうか。いや、でも、おっぱいとか、男だったら見ちゃうよね? 本能だから仕方ないよね? なのに、何で俺だけ許されず、何で俺だけ嫌われるんだ……。
ホモになりなさいという神の啓示ですかっ? 嫌です! 俺は、おっぱいなくてちんこある人を愛せません!
俺、そんなにブサメン……いや、下手すりゃキモメン? ……なのかな……。
セックスしたい……。
「……って、おいおい」
マイナス思考になっていたら、いつの間にか、携帯電話片手にプールに来ているじゃないか。
思いとどまるんだ、俺! そもそも、あの電話番号が解読できて、電話をかけたとしても、相手がビッチとは限らないんだぞ! 呪いの電話番号かもしれないんだぞ! 宗教かもしれない! ホモかもしれない! BBAかもしれない! 全くもって普通の人かもしれない!
「あ……」
更衣室の横、誰か、いた。長い黒髪が、風になびいて、一瞬どきっとした。
ビッチ? 幽霊? と、身をすくめるが、すぐに見知ったクラスメートだと気づく。
「あ、ななしくん」
「姫……さん」
彼女は、比較的おとなしいクラスメート……だと思う。あまり、俺の中で、特別な印象はない。
ただ、きゃぴきゃぴと話す姿を見たことがある。あれは、彼女が、その友人たちと楽しそうにしていた時だったか。
普段は、目立たない方ではある。だが、決して暗いことはなく、明るい女の子だとは、感じていた。
俺とは、特に接点もない。一応クラスメートなので、全く話したことがないわけではないが、授業で一言、二言交わしたくらいだ。