第23章 記憶喪失~家康~
薬が効き、穏やかな寝息を立て眠りにつく
以前から聞いていた五百年後の医学との差に家康は唇を噛みしてた
(御典医は居ても蘭学に似た医学はまだ俺も知らない)
この先、より高い医学の心得を身につけると誓いそばに寄り添った
「んん…」
時折、小さな寝言が聞こえる。脈を確認しその表情を見る
(脈も安定しているし、魘されているわけじゃない)
静かな部屋の中は火鉢からパチパチと隅の弾ける隅の音と寝息が木霊した
空が薄明かりに包まれた頃、手拭いを濡らし直すとめいは目を冷まし
「家康、ごめんね…迷惑かけて…あのね、思い出したの…」
「え?めい、もしかして」
「家康と過ごしてきた事、思い出したよ」
手拭いを外し何とか上体を起こすと家康が咄嗟に抱きしめるように支える
「家康の匂いがする、温かい」
ぎゅっとしがみつく姿が愛おしく、何より記憶が戻った事が嬉しかった
「良かった…記憶戻ったんだね」
「うん、ありがとう。家康のおかげだよ」
なりふり構わず抱き締めた。一雫の涙がこぼれ落ち、悟られぬよう肩に顔を埋め
「家康、ずっと看病してくれてたんでしょ?眠いよね?ゆっくり寝て…」
「あんたも一緒に寝てくれる?」
声が少し震えた。きっと悟られたであろう…だがめいは触れずぎゅっと抱き締め返し
「移らないかな…でも、ずっと居てほしい…」
ぽつりと呟かれ、身体に嬉しさが染み渡る
そっと深呼吸をし、身体を離し優しく口づけを落とした
「んっ…」
(ずっと触れたかった…こうして口づけたかった)
逸る気持ちを抑えそっと唇を離しめいを横たえさせると家康も布団へ入り小さな体を引き寄せ
「もし、記憶が戻らなくても、俺は絶対めいとこいびとになるって決めてた」
「ありがとう…もし、逆の立場だったとしても私もまた家康と一からこいびとになるよ。貴方以外要らない…」
逞しい胸に頭を預け寄り添う身体を抱き寄せる
小さくて暖かく柔らかな身体、ふにゃふにゃとした笑い顔。
(温かい…やっぱりめいがいるから、こう思えるだ)
安堵の中めいは再び眠りに落ちる。安心した家康もめいを抱きしめたまま眠りについた
終