第15章 新たなる記憶を貴方と~謙信~
春日山城に来て二ヶ月
戦もなく穏やかな日が続く
(謙信様はつまらないって言うけど…こんな日が続いてほしい)
城に居る時は謙信はめいのそばに必ずいる
(謙信様…)
昨日も湯殿に向かい湯に浸かると後から謙信はやってきた
後ろから抱き締められるのは日課。逆上せてしまう程深く愛された事もある
(あぁ、もう…変なこと考えちゃった)
和紙に墨がぽたりと落ち、着物のデザイン画は失敗に
佐助と隣国へ出向き二、三日帰っては来ない、佐助の制御により留守を預かり針子の仕事に専念出来ている
「めいお前も来い、離してはやらん」
「だめです謙信様、今、めいさんは大切な仕事を抱えてます。辛抱してください」
(佐助君って本当に謙信様の扱いが上手い)
今朝のやり取りを思い出す
渋々離れた謙信がちょっと可愛いなと思いながら新しい和紙に絵を書き始めた
ニ日後、朝目覚めてもやはり謙信の温もりはない
離れて気づいた謙信と迎える朝の心地よさ。胸に抱かれ目覚めれば穏やかな顔で見つめられる
「…たった二日しか経ってないのに…会いたい…」
ひんやりと冷たさが残る布団、気配すらない部屋
たった数日の事さえも長く感じ、身支度にもいつも以上に時間がかかった
新しい反物を買いに市にでる
いつもと変わらない風景、賑わい。よく晴れた空、違うのは一人と言う事
(あぁ、あそこに謙信様と行ったなぁ、この先曲がったとこで花畑見つけて…)
気づけば謙信と見た風景ばかり考えている
一人で出ることなど、殆どなかった。いつも寄り添い歩いた町並み
変わらないものと自分の中に映る違うもの
(明日には帰ってくるし、笑顔で出迎えなきゃね)
反物を買い城へ戻った