第19章 No.19
フンフンと鼻歌を歌いながら廊下を歩いていると、隊士達は青ざめて目を逸らして道を譲る。
ゆきとのデートの翌日、オレは上機嫌で仕事に励んでいた。今なら総悟がビル10棟破壊してきても笑って許せるんじゃないだろうか。
何と言っても一昨日の夜、めでたくゆきと結ばれることができたのだ。
入れ替わっていた時にゆきの裸は見慣れていたが、いざとなると凄くエロ…いやいや、新鮮だった。
愛する人とのセックスがあんなに気持ちのいいものだとは知らなかった。そして更に身体の相性も抜群だったのが、オレとゆきは運命の相手だったのではないかと乙女チックな考えまで沸き起こさせた。ゆきが処女だったにもかかわらず、ついついのめり込んで何ラウンドも致してしまった程だ。
昨日はゆきと遊園地に行った。
眼光鋭く“鬼の副長”と言われる自分が、まさか恋人と遊園地デートをする日が来るとは。メルヘンな乗り物に囲まれて浮かれるオレの姿を見たら、隊士達は卒倒するに違いない。
しかし武州の田舎出身のゆきは遊園地が初めてだったらしく始終はしゃいでいた。その姿を見たら周囲から多少自分が浮いていようとも我慢しようと思った。
そして昨夜はまたゆきの家で一度だけ愛し合い、オレは今朝屯所に帰ってきたのだ。
目を閉じるとゆきの桃色に染まった肌が瞼に浮かぶ。甘い嬌声をあげながら身体を震わせ達するその様はオレの脳内永久保存版だ。
そんな幸せな回想に浸っていると、気が付けばもう昼間近というのに事務仕事が一向に進んでいなかった。慌てて気を引き締めて書類に向かう。
また昼には定食屋へ行こう。
「いらっしゃいませ」
昼時、引き戸を開けて入ったオレに、愛するゆきは満面の笑顔で…。満面の……。
…あれ?満面の笑顔…じゃねぇ…?
オレの姿を見たゆきは、一瞬泣きそうな顔をしたように見えた。しかしすぐ笑顔になると、「カウンターにどうぞ」と声を掛けてきた。
「トシさん、いつものですか?」
水をコトリと置きながら聞いてくるゆき。何故か目はオレを見ない。
おかしい。なんかいつもと違う。
「ゆき、どうした? 何かあったか?」
オレが問うとゆきは一瞬体を強張らせたように見えた。