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十四郎の恋愛白書 1

第1章 No. 1


ガララ

「あら、土方さんいらっしゃい」

古びたガラスの引き戸を開けると、いつものおばちゃんの顔が振り返る。昼時を過ぎた今、客は少なく、オレはカウンターのいつもの席に座った。

「おばちゃん、いつもの」
「はいよ」

おばちゃんがにこやかに返事をしてお冷を出した。

この店はオレの土方スペシャルを唯一提供してくれる、貴重な定食屋だ。半年前おやっさんが亡くなって、もしや店を閉めるのではと危惧していたが、気丈にもおばちゃんは旦那の遺した店を一人で切り盛りして続けることを決めた。それからは、昼時限定ではあるが、以前と変わらず定食屋は営業され、オレも相変わらず常連の名を連ねている。



注文して数分経つが、いつもならすぐに出される品がなかなか出てこない。不思議に思いながら出されていたお冷やをチビチビ飲んでいると、厨房から「あら?あらら?」とおばちゃんの声が。
そして告げられた衝撃の事実。

「ごめんなさい、土方さん。マヨネーズがきれているみたい。」
「えっ‼︎」

まじか。

今日はずっと大量の事務仕事に追われていた。昼飯を抜いても終わらなかった書類の山に、ここで土方スペシャルでガツンと気合いを入れ直そうと思って訪れたのだが…。

「私ったらダメね。あの人から、マヨネーズと餡子だけは毎日在庫の確認しとけってあれだけ言われてたのに…。本当にごめんなさいね」

申し訳なさそうに眉を下げて謝るおばちゃんに文句を言うこともできない。仕方ない。今日は諦めて、何か定食でも頼むか。

しかしおばちゃんはパチンと手を叩くと、

「あ、でも待って。ちょっと聞いてくるから」

そう言って奥の洗い場に下がった。

何を聞きにいくんだ?
近所にマヨネーズ借りに行くとか?ちょっと醤油貸して、的な?

しかしすぐに洗い場から出てきたおばちゃんからは驚くべき発言が。

「もし良かったら、手作りのマヨネーズでの土方スペシャルならできるんだけど…」

えっ、手作り⁉︎

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