桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第6章 A.
「あの…、さっきのって…」
二人が食堂から出て行くのを見送ってから、俺は口を開いた。
「そうですね…」
俺の言葉の先を読み取ったのか、井ノ原先生が銀縁の眼鏡を指でクイッと押し上げると、結んだ両手をテーブルの上に乗せた。
「お気づきかもしれませんが、今のは所謂”認知症”の検査です」
”認知症”…
もしかして…、とは思っていたけど、実際にその言葉を耳にすると、すんなり受け入れられるわけもなくて…、俺は思わず身を乗り出していた。
「で、でもそれって、高齢者の人がなる病気でしょ? 翔さんはまだ26歳だし…そんな筈…」
ない…。
そう言いたかった。
でも、この二日間の翔さんの言動を考えれば、井ノ原先生の診断に間違いはない、とも思えてくる。
「詳しく検査してみないとハッキリとしたことは言えませんが、ニノ君から聞いた話と、今の簡単なチェックを行った結果、おそらくは”アルツハイマー型“の“若年性認知症”かと…」
嘘、だろ…?
俺は頭の中が真っ白になっていくのを感じていた。
「原因については、やはり詳しい検査が必要になりますが、今の状態だと”中期”の症状だと思われます」
”認知症”
その言葉だけが、頭の中で何度も何度も巡っては消えを繰り返し、井ノ原先生の言葉なんて、何一つ耳には入って来なかった。