第38章 徒花*
気配が消えたのを確認するとベッドから起き上がる。
岡本さんが触った髪にそっと触れ、その指を見つめた。
ふと視線を外せば、ベッドサイドのテーブルに置かれたメモ。
『黙って帰ってごめんね。』
メッセージの下には電話番号。
手にとって目を通すだけで、鼻の奥がツンと痛くなる。
『キミが望むなら、付き合う?』
『好きじゃないけど、嫌いでもない』
飛びつかないなんて、私も成長したかな?
頬を伝う涙。
何を恐れてるんだか…
時計を見れば7時少し前。
今日は、午後から。
涙が引いたらカフェでも行こう。
気分転換でもしないと仕事にならない。
そんなに切り替え上手くないから。
枕に顔を埋めれば残る岡本さんの匂い。
大きく息を吸えば目元の生地が滲む感覚。
もう少し…もう少しだけ泣いてもいいかな。