第17章 昏迷
「何食いたい?」
「んー。肉ですかね。」
「即答で肉とか若いな?」
「えー。そうですか?前よりは大分食べられなくなりましたけど。」
助手席の窓から外を眺める。
「タツさんも、さっきの現場で終わりで良かったです。」
「あ?」
「実は、一人になりたいって思ってたんですけど。」
「実際一人になったとしたら、モヤモヤでどうにかなりそうでした。」
視線を外に向けたまま、口はどんどん言葉を発する。
「実は、失恋したとこです。」
「あはは。笑っちゃいますよね?」
「目の前で、かっ攫われましたわ。」
「まぁ。何も出来ないのが悪いんですけど。」
大きくため息を付く。
「でも。現状を目の当たりにしても、諦めてない自分に驚きです。」
「いつかは手に入れたいとか思っちゃうんですよね。」
「僕って、こんなに諦め悪いんだなーって。」
「………。」
「すみません。突然こんな話して。」
「何かアドバイスが欲しいとか、そう言う訳では無いんです。」
「誰かに聞いて欲しかったって言うか…」
「だから、今のは『無し』って事で!」
両手を胸の前でパンッと叩く。
「さて。肉と言ったら牛ですかね~。」
「焼肉?鉄板焼き?」
「他には思いつかないや。」
「タツさん。美味しいお肉食べさせてください!」
ニッコリ笑って、運転中のタツさんを見る。
視線を逸らさぬまま答えてくれた。
「当分食いたくなくなるくらい食わせてやるよ。」
頼りになる先輩だな…
僕もいつか、こんな風に話せる先輩になれるのかな?