第1章 朝と彼女
「りーくん!りーいーくーん?」
女特有の高音で喧しい声が聞こえて目を覚ます。正しくいえば女というか、あのこ。無駄に高くて変な声。その上よく通るのに馬鹿でかい声で叫ぶし、朝っぱらからご近所の迷惑なんて微塵も考えてないみたい。
「もー、りーくん!早く出てきなさーい!わたしはまーくんみたいに甘くないからねーー?
またまーくんを困らしてるみたいじゃない、いい加減にしてよ、まーくんが倒れたらりーくんの所為だからね?」
ああ煩い、聞こえない、聞こえないっと。
布団に潜り込み耳を塞いでもなおそれらを通り越して聞こえてくる声。
もう慣れっこだ、このくらい。意識がまた蕩けてきて、声が遠ざかっていくような感覚になる。やがて声は完全に聞こえなくなり、ほっと一気に脱力すると、今度は階段をバタバタと上がる音が聞こえてきて嫌な予感がした。
それは的中して、容赦なく自室のドアを開かれる音がした。
「りーくん?おーはよーー?」
布団を剥がされると、目の前には不敵な笑顔を浮かべた女の子。俺の幼馴染の友梨香が立っていた。
「信じらんない、なに人の部屋に、ってか家に勝手に入ってきてんの。」
「ちゃんとれいお兄ちゃんに上がらせていただいたもーん」
今日に限って何でしっかり起きてんの、バカ兄者。
「まあそんな事はどうでもいいから、はやく準備して!遅刻しちゃうよ? 」
「いーよ遅刻とか、どーでもいいし…ほっといて。」
「ダーメだよ!また留年しちゃうよ?」
「もーーうーざーいーー。 」
布団をまた被れば、奪おうと引っ張ってくる。しかもすぐ力負けしたし。
「馬鹿力。」
「りーくんが非力なだけでしょ?」
減らず口。そんなこと言ってる間にも掛け布団畳むは制服をハンガーから外してるは、変に手際がいいし。
対抗するだけ無駄な気がしてきた。