第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「不安か?」
ゾロとペローナが乗った船をいつまでも見送っていたクレイオに、ミホークがポツリと問いかけた。
「ゾロとペローナなら大丈夫。ただ、私も頑張らなきゃと思っていただけ」
首を横に振って笑顔を見せると、ミホークもふと優しい表情になる。
「おれにできることがあれば何でも言え。シャンクスにばかり父親面はさせん」
「ふふふ、私の父親はミホークだけよ」
その笑顔に“クレイオ”の面影は無いのに・・・
何故だろう、最近はその声がとても懐かしい。
まるで・・・愛しい人がすぐそばにいるようだ。
「お前はロロノアのような男に愛されて不幸だとは思わんか?」
「・・・どうかな」
もう船は声が届かないほど遠くへ行ってしまっている。
いつまで待っても、海賊と結ばれる事はないのかもしれない。
「でも、私はお母さんの娘だから」
恵み溢れる聖母様───
「海賊に愛されるのも、海賊に愛されて幸せだと思うのも」
罪深い私達のために、今も、死を迎える時もお祈りください───
「“母親譲り”だから仕方がない」
愛する人が、無事に世界の果てまで辿り着けますように・・・
クレイオの首には、ラピスラズリとローズクォーツの珠が連なったロザリオ。
優しく光るそれは、天から娘の幸せを願う母の愛情だった。
「そうか・・・」
ミホークは柔らかく微笑むと、海の方に背を向けた。
「ならば、おれは弟子を殺さずに済みそうだ」
クレイオはこのあとすぐ、教会の子ども達の元へ戻る。
それまでの僅かな時間、親子水入らずといこうか。
「城に戻るぞ」
すると、ミホークの腕にクレイオの腕が絡んだ。
「うん、“お父さん”」
そう呼ばれる日が来ようとは、二年前までは想像もしていなかった。
いや、想像することすら許されないと思っていた。
「クレイオ・・・」
幸せになって欲しい。
母親にそうさせてやれなかった分も含めて。
ずっと諦めていた願いを胸に抱き、ミホークは娘の髪を撫でた。
かつての美しさの面影を残す、シッケアール王国の古城。
その前に広がる畑には、白い花びらの可憐なカモミールが、野菜に寄り添うように咲き誇っていた。
第9章 「ロザリオの祈り」 Fin.