第1章 最近の江戸城は…
私は鷹司様にお仕えしております、女中でございます。
最近の鷹司様は、なんともいえないご機嫌の良さ…と申しましては失礼でございますね…
…あれほどまでにお嫌いだった上様に、贈り物をされるなど、心境に変化が伺えます。
もういっそ、腹括りされては?とも、私達女中の間では密かに話をしていたりするのですが、そうもいかないみたいで…
今日に限ってではない事ですが、春日局様からのお茶のお誘いをお断りになられるのは、変わらないようです。
そんな鷹司様について、春日局様も少し苛立ちが見えまして…お断りのご連絡が少し遅いなどと、私が怒られてしまいました。
……
全く!鷹司様のあんぽんたん!
あ、これは私の心内の悪態なので、あしからず…
ついでに廊下の隅を、
ガツン
と、蹴り飛ばしてみたら、あら、なんだかすっきり。
さて、鷹司様にお茶でもお持ちしましょうか…そんなことを思って、踵を返したら…
「な、なんかストレス?」
ぎゃあああああああ
「う、上様!!」
申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません…
江戸城の壁を蹴る女中など、許されるわけありません。
ああ私の人生さようなら…
「わかるぞわかるぞ。うんうん。色々あるよね。苦しゅうない苦しゅうない。」
おでこを擦り付けて謝る私に、上様は肩をとんとんと叩きながら、言葉をくださりました。
なんともお優しい…
「申し訳ございません」
何度目かのその言葉に、
「ほれ。これを食べて元気を出せ。」
目の前に差し出されたのは、桃色と空色の斑点模様が付いた、白い小さな包み。
「ほれ。遠慮するな。」
半ば強引に手の平に置かれたその包みを、ありがたくいただき、再び頭を下げてから…上様を見上げますと
「苦しゅうない苦しゅうない」
と、満面の笑みの上様がいらしました。
なんて綺麗な方なんでしょうか。
その笑顔に見惚れてしまいました。
やっぱり鷹司様はあんぽんたんでございます!
上様のこのような笑顔に惚れないなど!
まあ、鷹司様のご事情を嫌というほど承知しておりますから、手放しにあんぽんたんなど思ってはいけませんね。