第14章 言葉を吐息にのせて。(菅原孝支)
「すごい日向くん!今の速攻のタイミングバッチリだね!」
「へへ…っ!」
「調子に乗んな、忘れねー内にもう1回だ!」
「…………」
あの日の事があった次の日からも先生の態度は何一つ変わらずにいた。
授業の時もニコニコしてるし、
部活の時も日向を褒めて撫でてるし、
俺への態度にも変化はない。
まるであの日の事が夢だったのかって思いたくなる程に。
そして、あの日から1ヶ月。
つまり先生の実習最終日。
男子バレー部でも練習後に盛大に先生のお別れセレモニーをした。
清水から渡された花束を抱えた先生は少し涙ぐんでいて時々目尻を押さえていた。
「結局……俺、フラれたって事…だよな?」
あの日と同じ鍵当番の今日。
誰もいない体育館の床に向かってそう呟いた。
このまま会えなくなって、
俺は先生を忘れて、
違う誰かにまた恋をするのかな。
そんな所を想像してみたけど、首を振ってその想像を否定する。
「出来るわけ、ないよな……」
1ヶ月経っても忘れてないんだ。
先生のキスも、体温も、肌の感触も。
「はぁ……」
「菅原くん?」
「……!、先生…っ!?」
大きな溜め息をついた後、後ろから掛けられた声に慌てて振り向く。
「良かった、まだ居てくれて!」
「え……」
ニッコリと笑った先生はゆっくりと歩み寄って俺の手を握った。
「え、と…先生…?」
「ふふ、もう先生じゃないよ?」
「あ……そか、俺に何か…………っ!?」
不意に寄せられた顔。
重なった唇。
頭が整理できなくて、必死になっていた俺に届いた先生の声。
「私も、菅原くんの事がーーーーーー、」
吐息の触れ合う距離で聞こえた、ずっとずっと欲しかった言葉。
END.