第1章 (死んだら困る)
「見ろこれ、キュアランの新刊。アリスの分もと思って多めに持ってこさせたんだ。読むだろ?」
ドスッ
笑みを隠し切れない声で言いながら、目の前に大量に同じ本を積み重ねる彼。光の加減で紫にも見えるようなゆったりうねった髪に、アメジストのような瞳。そしてそれを縁取る隈。
顔立ちは整っていて美形なのに、顔色の悪さと線の細さで少々不健康そうにも見える。しかし知識への探究心と斜め上の性癖だけは感嘆すべきものがある、この国の第二王子であるメアだ。
「勧められるなら読むけど…同じ本を何冊お買い上げしたのよ?」
目の前に積まれた本を横から数える私に、メアはどうだと言わんばかりのドヤ顔を向ける。
「紙の本は時間が経てば劣化するし、いつ何があるかわからない。この間アリスがお茶零しそうになってた時は焦ったんだぞ。キュアランの本がそばにあるのに手元不注意なんてオレには有り得ないからな。それから学んで、万が一汚れた時用と、保管用と読む用で二冊ずつ用意した。アリスとオレで半分ずつだ」
「いやいや。多いよね?」
突っ込んだものの返答はなく、メアは早速本を一冊手に取っている。あぁ、またメアの隈が濃くなるんだろうなぁ…。
わくわく、という擬音が似合いそうなほどに浮かれたまま高級そうなソファまで歩み寄って、こちらをチラリするメア。
「? なに?」
「……」
こいこい、の手招き。
何だろう、新刊読むなら邪魔しちゃ悪いしお茶でも飲もうと思ったんだけど。
「ん」
ソファをぽすぽす叩かれた。来いってこと?
メアは新刊が出ると、前の巻も傍に用意して時々開きつつ、集中して何度も何度も読み返す。てっきり一人で読み始めると思ったのに、と不思議に思いながら近寄ると、
「座って」
「え、いいの?」
「いいから」
軽く肩を押されて、見るからに高そうなソファの端に座り込む。自国では殆ど考えられないほどふっくらした生地に毎度のことながら感心して、メアを見上げた。
ここに来たばかりの頃だったら、読むのに集中するからジャマとか何とか言って、傍に近づけさせてくれなかったのに。綺麗な瞳を見詰めながら、近くに居られることに少し嬉しくなる。