第2章 ひとつちがい
「……あの…?」
声がして 我に帰る。
い、いけない……
驚いてる場合じゃない。
「すいません、少々お待ちください」
自然に作れるようになった営業スマイル(今回は少し引きつったかもしれない)で答えてから、作業を始める。
……一瞬 自分の名字かと思った。
一見珍しそうと思われがちな“赤石”だって、実はそこまででもないし、
他にも“赤”から始まる名字には何度も出会ったことはあるけれど。
……でも。でもでもでも。
カタカナで1文字違いは流石に見たことない。
しかも最初と最後の文字は同じで、違うのは母音だけ。
むしろ同じよりも感じる、妙な驚き。
なんとも形容しがたいこのドッキリ感。
とりあえず いきなりのハプニング(?)に動揺しながらも、担当者である自分のサインまで書き終える。
「返却期限は5月〇〇日までです」
背の高い彼と目を合わせるため、顔をほぼ真上に上げて言う。
どうせなら、使う人が少しでも気分良く使えるように。
顔を合わせるなら目を見て、
挨拶するなら笑顔で、
やれる事はやる。
「どうも」
立ち去るアカアシさん。
今日ここに来た生徒は 彼だけだった。