第69章 デート*高尾
ーーーーーー気がついたら大きな桜の木があった。
それこそピンクの絨毯、カーテンという言葉が相応しいくらい一面の桜。
その下には小さな女の子がいて。
「ねぇ。」
声をかける。
自分でも意図せずにそうしてたから少し驚いたが、少女は声をかけられるのをわかっていたようだった。
「一緒に遊ぼ。」
柔らかい春の日差しのような声。
その声に導かれるように、少女に近づいていた。
ドキドキ。
ワクワク。
子供の頃にはすぐそばにあった無邪気な気持ちが湧き上がる。
それをあまり懐かしく感じないのはオレがまだ子供だってことか?
そこにはありのままの自分がいる。
心地よい自分がいる。
ずっとここにいたいと願う自分がいる。
そこで感じる。
少女の存在を。
そしてふと思う。
少女への特別な感情を。
自分の居場所の在処を。
日は流れ、桜に緑が目立つようになった。
いつも楽しそうだった少女は、寂しそうな笑みを浮かべていた。
オレは察する。
それは別れの予感。
少女の笑顔の儚さ。
それはまるで散りゆく桜のようだった。
「もうお別れだね。」
最後の桜の花びらが地に着いた時、少女は言った。
その一言をきっかけとして、桜の絨毯が逆流するかのように舞い上がる。
(行くな!)
そう叫ぼうにも声は出ない。
かすれて少女には届かない。
それでも少女は感じ取ったようだった。
「あなたのためなら、私が力になるよ。何度だって。大丈夫、きっとまた会えるから…。」
少女の目は再会を信じていた。
(ありがとな。)
オレはそう伝えるように笑いかけて、ゆっくりと目を閉じたーーーーーーーー