第8章 amen
北方の黒王軍については依然として詳細が掴めぬまま。
解毒剤の作成も進捗が著しくない。
何もかもうまくいかない。
「……ジェ…ミ伯爵、サンジェルミ伯爵っ!大事な会議の最中ですぞ!聞いておられますか!」
「なによ五月蠅いわね!そんな大声出さなくても聞こえてるわよ」
貴族院の総力戦会議に参加しながらも、私兵を出していないサンジェルミは上の空だった。
建国から50余年たった今も、オルテという国は国父アドルフ・ヒトラーの掲げた国是に沿って侵略と拡大を続けている。
代わり映えのしない議題に彼は飽き飽きしていた。
それでも会議に出席したのには理由があった。同じ漂流者であるラスプーチンなら黒王軍に関する情報を掴んでいるかと期待していたのだが。
残念ながらそれは空振りに終わった。
彼を召し抱えていた貴族から聞くところによると一月程前に屋敷から姿を消したきり戻ってないそうだ。