第13章 自分の気持ち*
俺達は無言のまま歩き続けた。
隣を見るとビニール傘越しに空を見ている桜っちがいた。よく空を見上げてるけど…
桜っちは…誰を想い、何を考えながら空を見上げてるんスか?悔しけど…俺の事じゃないって事だけはわかる。
アハハ。やっぱ今告るべきじゃなかったかな…スゲー焦って俺情けねぇ…
「黄瀬君…」
「ん?どうしたんスか?」
「私…家そこだから…」
「あっ!そうっスね!じゃあまたね!」
「送ってくれてありがとう。またね。」
傘から出て小走りで家の中に入ってく桜っちを見届けるのが今の俺には精一杯だった。
ーーバタン。
「桜ー!帰ったのか?傘持っててねぇだろう?風邪引く前に風呂入れよ?って聞いてんのかー?」
家に入るとすぐにお兄ちゃんの声が聞こえてきたけど…今はそれどころじゃなかった。その声を無視して自分の部屋に駆け上がりそのままベットに体を預ける。
ーートントン。
「桜?」
「ごめんね。お兄ちゃんちょっと一人にして。お風呂入るから。」
「…わかった。下にいるからなんかあったら呼べよ?」
「うん。ありがと。」
まだドキドキしてる。
ーー桜っちの事が好きって事。
嬉しかった。でも私は好きって言えなかった。好きな人に想ってもらえて嬉しくて幸せで泣きそうになったと同時に…
澪の顔が浮かんだ。
そうだ。私が幸せになって良いなんてあるはずがない。でもこの気持ちはどうしたら良いの?
黄瀬君が好き。
いつの間にかこんなにも好きになってた。でも…これ以上の幸せを求めるなんてそんなのあっちゃダメなんだ。
今私は幸せだ。海常のバスケ部に入れて最高のチームに出会って皆を支えられる。贅沢すぎるよね?
帰る最中空を見上げた。
澪…私を恨んでるよね…?
でも澪の声は聞こえない。澪が私に何かを言うはずなんかないなのに…
私はそっと窓の向こうに見える薄暗い空を見上げてまた問いかける…
「澪…私好きな人が出来た。気持ちを伝えて良い?」
やっぱり何も聞こえない。
そして私の心も何もかもを濡らすまで、雨がいつまで降り続く空をずっと見上げていた。
この世にはもういない澪の事を想いながら…