第6章 シーザー×ドーナツホール
え?
何て言ったのシーザー、よく聞こえないよ…そんなに優しく微笑まれても聞こえない、ちゃんとその声で私に伝えてよ。
崩れていくシーザーの形をした人形が最後に残した言葉ならば、口の動きからだけど何となく解ったのかも知れない。
あぁ…世界がこの瞬間だけ凄いスピードで廻ったかの様に感じられた、可笑しいね、本当に。
黒く濁っていく視界の中、私が最後に目にしたモノは何だったのだろうか。
白色の天井だったかも知れない。
粉々に砕けていく壁だったかも知れない。
それともシーザーの形をした人形だったかも知れない。
でもなぁ…、やっぱり最後に見るのは私がこの世界で一番愛していて、堪らなく会いたい人が良いなぁ。
【形】なんかじゃあ無くて、【本物】が良いよ。
ねぇ…貴方が居る世界に逝けるとしたら、さっき言っていた聞こえなかった言葉を聞かせてくれますか?
何度も何度も、私に囁いてね、その優しい声で。
~EИD~