第18章 交わり
「…何だか」
「甘い匂いがするのう」
互いに裸で向き合って座り、二人は揃って鼻を鳴らした。
お茶に出されたクランブルパイの匂いがする。
「菓子の匂いは強烈じゃな」
「バターは特にもね」
ラビュルトが腕を伸ばしてカクの頭に触れた。
「アンタの髪、凄く美味しそうな匂いだもん」
「何じゃ、甘いのはワシか。お前さんは薄荷くさい。バターより薄荷の匂いが強いんかのう」
「ああ、そりゃね。アタシは子供の頃からずっと薄荷水を使ってるもの。ちょっとやそっとじゃ他の匂いに染まりゃしないわよ」
ラビュルトはカクの髪から自分の髪に手を移して、ニッコリした。
「すぐ咳き込むコだったから、母さんがアタシ用に作ってくれてたの。今はもう頑丈になっちゃって風邪も滅多にひかないけど、自分で作って使ってる。安心して落ち着くのよ、この匂い」
「ワシも好きじゃな。清々するわい」
カクは生真面目な顔で相槌を打った。
「そう?」
「ああ」
可笑しそうに笑うラビュルトを抱き寄せて深々と息を吸う。
触れ合う裸の肌が温かい。
「カクの部屋は暖房ってないの?」
締まった筋肉質なカクの体を抱き返して、ラビュルトが問う。
「あるにはあるがまだ使うとらん。ワシャあまり使わんのじゃ、暖房やら冷房やら」
「ふうん」
「寒いならつけるぞ」
「アタシは平気よ。山で慣れてるから。暑いのも寒いのも」
カクの胡座の中に横座りに納まって、ラビュルトは喉を鳴らすように笑った。
「寒いと人肌が気持ちいいなって思っただけ。悪くないじゃない、くっつき合って温め合うのも」
「動物みたようじゃな」
「人だって動物だもの」
「ハハ、そらそうじゃ」
紅い眉に唇をつけて、カクはラビュルトと額を合わせた。
「巣別れの話といい、お前さんは動物に近しくなるのが好きなんじゃな」
「そうみたい。したいようにしたいのよ。余計な気持ちなんか持たないで」
カクの瞼にキスを返し、ラビュルトが考え込むように言う。
「上手く言えないんだけど…」
「上手く話さんでもよかろ。思ったまんま話したらいいんじゃ」
「…うん。だんだんにね。そのときは聞いてくれるんでしょ?」
「でなきゃハナから聞かんわい」
再び額を重ねて目を合わせ、互いに何という事もなく笑い合う。