第6章 Sixth sense
廃城に戻ってからの私は、もう泣くのを止めた。
只ひたすらに豊久と与一さんは無事に戻って来る……それだけを祈っていた。
サン・ジェルミさんは北方の漂流者(ドリフ)との交渉に向かい、既にここを離れている。
そして信長様と2人で一昼夜まんじりともせず待ち続けた次の朝、僅かに馬の嘶きが耳に届く。
私は弾かれたように立ち上がり廃城を飛び出すと、白く棚引く朝靄の中から2頭の馬が現れた。
その馬が引く荷車にはまるで西部劇から抜け出して来たような男性が2人……
「よお、待たせたなぁ。」
そう言って私の前で止まった荷車の中には与一さんと豊久、それに飛行服を着た男性も乗っていた。
「豊久っ……!
与一さんも……。」
「ごめんね、さん。
心配した?」
いつも通りに優しく微笑む与一さんの姿にホッとするけれど、豊久は青白い顔をしてピクリとも動かない。
「豊久は大丈夫なんですか?
怪我は……」
私は豊久に駆け寄りその身体を確認する。
「…………っ。」
やはり傷だらけだ。
そこかしこから出血の痕が見て取れる。
「どうしよう……
豊久が死んじゃう!」
涙声で訴える私を与一さんは安心させるようなゆったりとした声色で宥めてくれた。
「大丈夫、お豊(トヨ)は死なない。
どれも致命傷では無いからね。
只、血を流し過ぎたみたいで意識が戻らないんだ。」
それを聞いて多少は安堵するものの、それでも不安を拭いきれない。
「取り敢えず中に運ぶぞ。
話はそれからじゃ。」
信長様の一声が響き渡り、皆の手を借りて豊久を廃城に運び込んだ。