第5章 Burning quintet
その時…突然轟音が響き渡り、もう一度空を見上げると……
紫電改が国境要塞に向かって機銃掃射していた。
「どうしてっ……!」
信じられない事態を目にして叫ぶ私に反して、信長様とサン・ジェルミさんは何故か落ち着いたままだ。
「あれも俺達が決めた事だ。」
激しく動揺する私を宥めるように信長様が言う。
「でもっ…まだ中に豊久と与一さんがっ…!」
「逃げ出しておる筈じゃ。
俺がを救い出すのを見届けたら、
お豊(トヨ)と与一も直ぐに引き上げる手筈になっておる。」
「だけど、あんな酷い……」
言っている間にも私が居た建物が紫電改の砲撃によってガラガラと崩れ落ちて行くのが見えた。
「これはを助ける事に協力して貰う為の条件なのよ。」
「条件……?」
少し悔しそうな顔をしたサン・ジェルミさんが更に続ける。
「廃棄物(エンズ)に北壁を奪われた彼等は
トヨちゃんが廃棄物(エンズ)の気を引いている内に
もうあそこを破壊してしまおうって提案して来たの。
さえ無事に取り戻せるならそれで構わないって
トヨちゃんは笑って引き受けたわ。」
「そんな……そんな事って……」
逃げている筈だと信長様は言った。
だけどあの豊久が土方歳三を前にして、簡単に引くとは思えない。
与一さんだって豊久一人を残して逃げ出す筈は無い。
そう、それに土方歳三……彼だってここでこんな風に死んでしまって良い人じゃ無いのに。
「嫌だっ……
こんなの嫌だよぉ……豊久ああっ!」
膝から崩れ落ち泣き叫ぶ私の身体は信長様に抱え込まれ、引き摺るようにしてサン・ジェルミさんの馬車に乗せられる。
「廃城に戻るぞ、。
そこでお豊(トヨ)と与一を待つ。
二人は必ず帰って来る。」
信長様の力強い言葉を耳にしながらも私の涙は止まる事を知らず、走り出した馬車から身を乗り出したまま既に瓦礫となってしまった国境要塞を見つめ続けた。