第9章 Blue Velvet~那須与一~
そう、この人が拐った為らば全てに合点が行くんだ。
源義経……当然さんは彼を知っていただろう。
僕と義経様の関わりも……。
であればさんの警戒心が緩んでしまうのも納得だ。
僕と義経様との『真実』を話しておかなかった事が悔やまれるよ。
「そう。僕があの娘を拐ったんだよ。
凄く簡単だったなあ。
僕の名前を聞いた途端に
『与一さんを呼んで来ます』なんて言っちゃってさ。
良い娘だよねぇ。
余程与一の事を信頼していたんだろうなあ。」
貴方はそうやってまるで僕の所為でさんは拐われたんだと言わんばかりだ。
本当に狡い人……あの頃からずっと。
彼の真意を謀りかねて不審さも顕に佇む僕に向かって、彼は予想外の言葉を紡ぎ出す。
「僕があの娘を連れ戻してあげようか?」
「………っ、何故?」
「何故って……与一はあの娘を返して欲しいんでしょ?」
一体、彼は何を企んでいる?
僕は無意識の内に問い掛けていた。
「義経様……貴方は『どっち』なのですか?」
その問いにも彼はけらけらと声を上げて笑う。
「僕は『どっち』でも無いよ。
只、面白い事が好きなだけ。」
これは確かに本音だろう。
だけど……それを馬鹿正直に信じる訳にはいかない。
「さんを返して貰う見返りに
貴方が望む物は何なのですか?」
「うん、流石与一だ。
話が早くて助かるよ。
僕は何一つ無理を言うつもりは無い。
とても簡単な事だ。」
そして彼は唇が触れそうな距離まで顔を近付けて笑顔のまま言った。
「僕に……与一を抱かせておくれ。」