第8章 Violet Moon~土方歳三~
「どういう事だ……此れは?」
俺は背後に佇むラスプーチンに問い掛けた。
「どういうも何も……
貴方が欲しいと望んだ物でしょう、土方。」
そう、胸を焦がす程に欲しいと望んだ。
漂流者(ドリフ)に奪い返された時には気が狂いそうになった。
『それ』が今、俺の目の前に横たわっている。
「土方の力は強大です。
我々の目指す世界創造に貴方は不可欠だ。
そんな貴方がこんな小娘一人に心を乱されて
不安定に成られては我々も非常に困るのですよ。
為らば土方の欲する物を手に入れてやれば良い。
………簡単な事です。」
愉悦を含ませ自慢気に語るラスプーチンの言葉を、俺は何処か遠くに聞いていた。
目の前に居るは、起きているのか眠っているのか……
薄く開いた瞼から俺に注がれる視線は虚ろで、時々苦しそうに身を捩る。
「に何をした?」
「何も。
貴方への捧げ物に手を触れる筈もありません。」
ラスプーチンはくつくつと笑い続ける。
「只少し……薬は使わさせて頂きましたが。」
そう言われて部屋の中に残る不快な臭気の理由に気付き、俺は眉をひそめた。
この臭気を放つ薬の所為では心身の自由を奪われているのか。