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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第2章 Episode1 #約束


『ごめんね。まだ少し、頭がぼーっとしているの』

嘘だ。
大嘘だ。

本当は頭だってもう正常に働いているし、物事をしっかりと考えられる程の回転力も取り戻している。

「なら、もう少し────」

『ひとりに!…………ひとりになりたいの』

私は彼の言葉を遮り、横に寝返った。
私なりの拒絶。
その事を彼は気付いている。
でも、彼なら気付かないふりをするという確信があった。だからこそ、私はそれを利用したのだ。悪女でも悪魔でもなんとでも言えばいい。私は、自我を持たないのだから、別にどうも感じない。

それでも、私は彼を見れなかった。きっと、彼の顔は傷つき、不安げに揺れているだろうから。


心の芯から悪魔になれたら。
冷徹になれたら、どれだけ楽だろうか。



私はどこまでいっても中途半端な愚か者だ。



「………分かった。しっかり寝て休んで元気になって」

彼に背を向けたまま黙って頷いた。

彼が約束の品を入れていた紙袋を持ち、立ち去ろうとする音が聞こえる。

『私の身勝手な約束を守ってくれてありがとう』

気づいた時にはもう遅かった。
思っていた言葉がするすると紡がれていく。

「いいよ。俺も望んだことだから」

そう言った彼の言葉は、どこまでも優しかった。
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