第24章 キサラリの使い方
「あぁ」
赤いチンチリが和人の町の中では珍しくてついつい追いかけていた。
アイヌの女がどうしてこんなところでうろうろしているのだろう?
追いまわしなんて暇人がすることがろうが、たしかに今の俺は暇人だったからだ。
「なつかしいな」
口をついて出たのはそんな言葉。
彼女を知っていたからとかではない、彼女が手にしていたものが懐かしかったからだ。
「はい?」
「あぁ、いや。あんたと同郷でね、それ」
「キサラリ」
「姪にさんざんやってやったなってなつかしくなったんだよ」
くるりと振り返った女はキツネ顔。
あーこりゃ深く付き合うとつままれるな
「道端で拾った木の枝が、どうしても似ていて。捨てられなかったんです」
「風のうわさだけどな、それを持ったシサムが面白いことをしたって話を聞いたぞ」
それは面白そうな話ですね。と食いついたキツネ女。
「お兄さん、名前は?」
「いや、言わねぇことにするよ。しがねぇ同郷の立ち話ってことにしておこうぜ」
なぁんか予感がするんだよ。
こいつに名前を教えると、胸毛が生えそうなんだ。
「又聞きの又聞きなんだが」
強面の巨漢の男がよ? これなぁんだって物知り顔でキサラリ持ったシサムに聞かれて……
「あたい未亡人……戦争で夫を亡くしてひとりぼっち! でも体はうずくのよ。でもそんな時はこれがあれば満足できるの」
キツネ女がちょっと引いたのが分かった。
で、そのあとなんて言ったと思う?
「はあ~かゆい所に手が届く」
ぶふっ!とキツネ女がふきだした。
「次のシサムはな、白髪のジジイで変装がとてつもなくうまい奴だ」