第1章 憧れの騎士様
お預かりした鞄の出来上がりの日をアラン様にお伝えして、大切に大切にバックヤードまで運んだ。
「そんなに慎重にならなくても壊れねえよ?」
と、そんな私の背後からアラン様の笑い声が聞こえて来る。
保管庫にそっと置けば、今日のお仕事はこれでおしまい。
あ…でも…
バックヤードに置いてある古い姿見に映る自分を見る。
こんな格好じゃアラン様とは釣り合わない。
エプロンを取って、再び鏡に自分を映す。
「………」
茶色い地味なワンピースに、革のストラップシューズ…
こんな格好じゃ…浮かれていた自分が恨めしい。
せめて髪の毛くらい下ろして行こう…と、一つに結んだだけの髪の毛をほどいてささっと梳いた。
バックヤードに引っ込んだままの私を心配してくださったのか、
「?どうした?」
と、店頭から聞こえたアラン様の声に、ハッと我に返り、おずおずと、アラン様の前に出て行く。
「あの…私…」
こんな格好じゃだめですよね…と言おうとした時、
「…ん。いいんじゃね?」
すっと伸びてきたアラン様のしなやかな指が、私の髪の毛をさらりと撫でた。
多分効果音が鳴ったんじゃないかな?というくらい、びくんと少し飛び跳ねた私に、アラン様は気にも留めていない様子で、そのまま髪から指を離す。
「行くか。あ…嫌いなもんとかあるか?」
「いえ、特には…」
「よし。」
お店の外にCLOSE の看板を出して鍵をかけると、どこからともなく夕飯の準備やレストランの仕込みだと思われる、野菜の煮込まれた香りが、風に乗ってやって来た。
そんなこの街の夜を告げる香りに包まれて、歩きなれた道を歩く。
いつもの見慣れた景色のはずが、全然知らない景色に見えた。