第1章 はじまり
いつも屋上でお弁当を食べる私は、その日も変わらず、4限目の授業が終わると同時にそそくさと教室を出ていこうとしていた。その時だった。彼女に声を掛けられたのは。
「あの…!谷地仁花ちゃん、及川ちゃん、居るかな…!」
大きくはないが、涼やかで凛としたその声は、賑やかな教室によく通った。途端に静まる教室。視線を集めている彼女は、どうやら3年生のようだ。上靴の色が違う。そして何よりとても綺麗な人だった。
「ひゃ、ひゃいっ!?!!?や、谷地仁花で、す!!!」
呼ばれて、シャキーンとでも効果音が付きそうな程勢いよく立ち上がった仁花。脚を机や椅子にぶつけながら彼女の元へ走っていく。私もその後ろに続いた。
「急にごめんね。私は3年の清水潔子。バレー部のマネージャーをやっているんだけど、今人手が足りなくて。あと2、3人マネが必要で募集しているの。だから部活に入っていない子を探して、勧誘してて。良ければ2人とも、入ってくれないかな……ってことなんだけど、見学だけでもどうかな?」
ふと隣の仁花に目をやると、ガチンゴチンに固まっていて明らかに別のことを考えているだろうという顔をしていた。差し詰め、(この先輩凄く美人だなあ)といったところだろう。
「うへ!?ハイッ!!」
急に清水先輩に問いかけられ、上の空だった仁花はとても元気よく返事をした。それを肯定だと受け取った清水先輩は仁花の手を両手でぎゅっと握り、
「ほんとう!?ありがとう!!えと、ちゃんは、その、どうかな…!!!」
遠慮がちに、しかし期待のこもった澄んだ瞳に見つめられ、私は思わず頷いた。
「…っはい」
「…!!!
2人とも、ありがとう!じゃあ、放課後また来ますね!」
軽く手を振って、とても嬉しそうに帰っていく綺麗な後ろ姿を眺めながら、私はほう、と溜息をひとつ漏らした。