第1章 1
「なあエルヴィン」
「ん?なんだ、ノア」
「本当にここに来るんだろうな?」
太陽の届かないジメジメとした空間
犯罪の温床のようなここは三重の壁に守られている地域のさらに下
中止された地下移住計画の残骸
華やかな王都の陰に埋れ育った者たちが一度も地上に出ることなく生涯を終えることも少なくないこの地下街
ここには磨くべき剣があるとエルヴィンは言う
「もうじきだ」
ノアの青みがかったグレーの大きな瞳に睨まれたエルヴィンだがいつもの無表情で答える
エルヴィンのもうじきは範囲が広いから信用ならない
そう言いたいのをグッと堪える
狙う相手は立体機動を使い窃盗を行う者たちの主格三名
毎度憲兵どもが追いかけているが捕まえられたことはないらしい
そんな窃盗どもの取り締まりなど面倒くさいと思う反面どれくらいの腕前なのか楽しみでもある
「……におう」
エルヴィンがもうじきだと言ってから少し経ったころ
ミケのとてつもなく効く鼻が反応を示した
「くるぞ」
エルヴィンの緊張感のある一言でその場の雰囲気が変わった