第2章 サクラ散る頃
気がついたら六限の終わりのチャイムが鳴り終わっていた。
帰ればよかったな…
そうは思うけれど、なかなか帰る気力が沸かない。
今日は剣道部の練習日だから、一君と帰ることもない。
今頃一君は何を思っているのだろう?
私のこと…考えてくれたりするのかな?
そう思ったら、お昼から今まで、一君のことしか考えてなかった自分に笑えてきた。
ちょっと寒くなってきたかな…
カーディガンの袖を伸ばして指の先まで隠す。
――カタン
屋上のドアが開く音がした。
グラウンドを見つめたままで、なんとなく振り向かない。
「…俺の授業は出ろっつったろ。」
タバコをくわえながら原田先生がこちらに歩いてくる。
「お腹が痛くて動けなかったの!」
「そりゃ大変だ。」
そう言って私の横に立つ。
無言で立たれても、なんだか落ち着かなくて、グラウンドに目を落としたままどうでもいいことを話しかけてみる。
「…ここタバコ吸っていいの?」
「ん~…だめかな。」
「ふ~ん」
「つっこめよ…ったく……」
ふと…原田先生からの視線を感じる。
今私の顔はひどいだろうから、先生の顔は見ない。
「………何があった?」
「………」
「こっち向けよ」
「やだ」
「やだじゃねえだろ」
ぐいっと腕を引っ張られる。
そんなに見ないでよ。なんだか恥ずかしくて原田先生の顔が見れない。
「…泣いてたのか。」
「お腹痛すぎて。」
そう返して再びグラウンドの方を向けば、原田先生の苦笑する声が聞こえた。
さわわわわっと春の風が通り抜ける。いろんな草木の香りが混ざった春のにおい。
そのにおいにほうっと一息ついて、
「春だなぁ…」
ぽつりとこぼせば、原田先生もグラウンドの方を見たまま、
「そうだな…」
と、静かに返してくれた。