第26章 告
「怒らないで聞いてくれる?」
銀さんは、そう前置きしてから言った。
「銀さんと朱里ちゃん、お付き合いすることになったから」
「「はぁぁぁぁ!?」」
僕と神楽ちゃんの声がハモる。
「でけェ声出すんじゃねェェェ。起きちゃうでしょーが」
声を押さえて怒る銀さんは、いつもの銀さんで。
朱里さんの髪を撫でる指先だけが、異質だ。
「お付き合いって、え?」
「お付き合いは、お付き合いだろーが」
「どうしてそんな話に、」
「どうしてって、惚れちゃったから?」
「……正気ですか?」
「え、何、駄目なの?」
相変わらず気怠げで、死んだ魚の目みたいな目をしてるのに。
口元が、いつもと違う。
その人に投げる目線が、他とは違う。
「惚れたって、え?」
「ぱっつぁん、無粋なこと聞くんじゃねェよ?」
「だって、銀さん」
「またお前は如何わしいこと考えてんの?」
「またって、僕はそんなこと考えてないですから」
「もう終わりにするネ。朱里が起きちゃうヨ」
神楽ちゃんに止められて、口をつぐむ。
銀さんは、少しだけ困ったような表情を浮かべてから、一言放つ。
「俺ァ、朱里ちゃんも大事」
それ言われたら。
もう何も言えないじゃないですか。
僕らも大事って。
そう言ってくれてるんだから。
元々、反対なんてできるわけ、ないんだから。
「朱里さんが起きたら、色々聞きますからね」
僕は踵を返して、台所に向かう。
お茶くらい、入れてあげますよ。